【やさしい軍事解説】軍隊(自衛隊)の陸・海・空の違いとは?

やさしい軍事解説

日々のニュースで陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊といった言葉や、陸軍・海軍・空軍といった言葉を聞いた事はありませんか?
しかし、軍事に詳しくない方であれば、字面からなんとなく違いが分かるものの、それぞれの組織の違いが分かりにくいと思います。
今回は「やさしい軍事解説」と称して、軍隊になじみがない方向けに、自衛隊を例にして簡単に陸・海・空の各軍の違いについて解説します。

この記事を読んでわかること

  • 陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の役割の違いが分かる
  • 日本の自衛隊と、外国の軍隊の違いが分かる
  • 陸・海・空以外の軍事組織について分かる
出典:陸上自衛隊HP

陸上・海上・航空各自衛隊の役割

現在の日本には軍という名前の組織はなく、自衛隊と呼ばれていることは多くの国民が認識しています。自衛隊は陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊の3組織に分かれています(厳密にはそれ以外の防衛省の役人の方たちも自衛隊に所属しています)。3自衛隊の違いはなんとなくわかりますが、ここで防衛省のHP1より各自衛隊の違いをみてみましょう。

  • 陸上自衛隊:「国民を守る最終的な力」で、「国民や領土を守る」
  • 海上自衛隊:「敵が海の上にいる間にそれを押しとどめ、退ける」ための「海上防衛を受け持つ」
  • 航空自衛隊:「日本中の空に目を光らせて」「万が一の侵略に備えてい」る

そのものズバリな回答ではないですが、陸上自衛隊とは「陸上」という漢字の表す通りで陸を主に防衛することを目的としています。同様に海上自衛隊は日本の領海(海中含む)を防衛するための力を持ち、航空自衛隊は日本の領空を守ることを担当していることになります。
日本という国家は周りを海に囲われており、外国からの侵略を受ける場合は必ず海か空からとなりますので、海と空を守る力が必要です。また、万が一侵入された場合に備えて、陸上で敵と戦うことが出来る能力も必要です。国家を防衛する際に1つの組織だと守りにくいということで、国家を陸・海・空という要素に分けて、それぞれの防衛に特化した組織を作っているわけです。
各国によって軍隊の分け方も差異があり、全ての国が陸・海・空の3つの軍を持っているわけではありませんが、現在の軍は大体3軍に分かれています。

長くなりましたが、3自衛隊のそれぞれの特徴をみていきましょう。

  • 陸上自衛隊:陸を防衛することを目的とするため、戦車などの車両がメイン装備。一番人が多い。
  • 海上自衛隊:日本の領海を防衛するため、護衛艦(軍艦)と潜水艦がメイン装備。
  • 航空自衛隊:空を防衛するために戦闘機をメイン装備とする。人や物を運ぶ輸送機なども持つ。

ただし、陸上自衛隊や海上自衛隊もヘリコプターなどの飛行機を持っていますし、航空自衛隊にも装甲車があります。装備が完全に分かれているというよりも、各自衛隊の目的に応じて必要な装備を持っているイメージです。例えば、陸上自衛隊が作戦を実施するためにヘリコプターが必要なので、自前のヘリコプターを持っています。海上自衛隊に配備されている飛行機は、敵の潜水艦を見つけるなど、海を守ることに特化した性能をしている飛行機が多いです。

出典:海上自衛隊HP

トリビア:航空自衛隊は航空宇宙自衛隊へ

各自衛隊はそれぞれ守る対象が異なる旨を解説してきましたが、時代に応じて守る対象が変化していきます。代表例として、2027年に「航空自衛隊」が「航空”宇宙”自衛隊」に名称が変わる2ことはご存じでしょうか?従来の大気圏内の領空だけではなく、宇宙空間を飛翔する人工衛星からの電磁妨害などに対応する必要性があることから、”宇宙”をつけた組織に改称するわけです。
海中の脅威に対応している”海上”自衛隊も、海上海中自衛隊に改称する日が来るかもしれません(笑)

出典:航空自衛隊HP

日本の自衛隊と外国の軍隊は何が違うのか。

日本の自衛隊と外国の軍隊の違いは何でしょうか?誤解を恐れずに言えば、「呼び方が違う」だけです。防衛研究所のレポートでも「自衛隊は、国際法上、明確に『軍隊』としての取り扱いを受ける。」とされています3。軍隊とは国家防衛を担当する組織であるため、日本という国家を守ることを目的とした”自衛隊”は世界の基準では”軍隊”となるわけです。例えば、航空自衛隊が持っているF-15などの戦闘機はアメリカ軍が持っている戦闘機と同じです。
ではなぜ今の日本では軍ではなく自衛隊と呼ぶのでしょうか。歴史をみていきましょう。1945年に日本は第二次世界大戦に敗北したことにより、当時の大日本帝国”陸軍”と大日本帝国”海軍”が解体されました。その時点で軍隊と呼ぶ組織は日本からなくなったわけです。しかし、第二次世界大戦が終結した直後、今度はアメリカとソ連(現在のロシア)の対立が深刻となり、アメリカ軍が日本を守っている余裕がなくなりました。一度は解体した”日本軍”が必要になったのですが、当時の日本では軍隊に対する忌避感が強く、なるべく”軍”に関する要素を排除することになりました。そこで誕生した名称が自衛隊です。
外国では陸軍に相当する組織を陸上自衛隊、同じく海軍を海上自衛隊、空軍を航空自衛隊と呼ぶことにして、階級の呼び方も自衛隊独自のものにしました。外国では”大佐”と呼ぶ階級を自衛隊は数字を用いて”一佐”と呼びます。しかし、英訳は外国軍と同様の名称を用いているので、自衛隊用語というのは完全に日本国内に向けた言葉です。
とはいえ、軍隊という組織は各国の事情を反映しているため、外国軍には存在するが日本の自衛隊にはない組織というものも存在します。次の章ではそちらをみてみましょう。

海兵隊とか聞いたことあるけど、海軍とは違う?

アメリカ海兵隊という言葉をニュースで聞いたことはあるでしょうか?このアメリカ海兵隊という組織は陸軍や海軍の部隊の名前ではなく、”アメリカ海兵隊”という独立した軍事組織です。この海兵隊に相当する組織は日本の自衛隊にはありません(似た能力を持つ”水陸機動団”という組織は陸上自衛隊にあります)。
このアメリカ海兵隊という軍事組織は、アメリカ国外で活動することを前提としています。そのため、専守防衛で海外に軍を派遣して戦闘することを想定していない日本には不要な組織です。海兵隊の装備は陸軍、海軍と共通の装備が多いですが、海外に派遣されて戦闘をするという目的の組織なので、陸軍や海軍とは別の組織になっているわけです。
軍隊という組織をどのように分けるか、という問題はその国の戦略によって変わってきます。アメリカ以外の例でいうと、例えばロシア軍はパラシュート降下する歩兵部隊を”空挺軍”という独立組織として保有しています。日本では陸上自衛隊の1部隊としてパラシュート部隊”第一空挺団”があります。中華人民共和国ではロケット軍という長距離ミサイルを配備する部隊を独立した軍として持っています。日本はこれまた専守防衛の原則にのっとり他国を攻撃できる長距離ミサイルを保有していないので、ロケット軍はありません。
軍隊というのはそれぞれの国の思惑により定義が異なるため、呼称や装備の保有先の違いが理解しにくい要因の一つであると筆者は考えています。

結び

今回は「やさしい軍事解説」と称して自衛隊を例に陸・海・空の3軍の違いを解説してみました。このブログでは、軍事・防衛の初心者が日常のニュースを理解しやすくなるように、軍事用語や組織について解説していきます。この記事を読んで面白かった方は是非ブックマークやSNSのフォローをお願いいたします。

  1. 防衛省:「自衛隊の『陸・海・空』その違いは?↩︎
  2. 産経ニュース:「<独自>航空宇宙自衛隊、9年度までに改称 防衛省↩︎
  3. 防衛研究所:「軍の行動に関する法規の規定のあり方↩︎
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