戦略、戦術、作戦という言葉は聞いたことがあると思いますが、その違いを問われるとすぐには答えが出てこない人も多いでしょう。昨今はビジネス界でも「戦略」がよく使われるため、むしろビジネス用語として馴染み深いかもしれません。今回は軍事用語における戦略、戦術、作戦の違いを解説します。日本の防衛戦略についてもみてみましょう。
この記事を読んでわかること
- 軍事用語としての「戦略」・「戦術」・「作戦」の違いが分かる
- 現代日本の戦略が分かる
戦略・戦術・作戦の違いとは?

それではまず戦略、戦術、作戦のそれぞれの辞書的な定義をみてみましょう。
【戦略】
1 戦争に勝つための総合的・長期的な計略。スポーツの試合においても用いる。
2 組織などを運営していくについて、将来を見通しての方策。
[補説]具体的・実際的な「戦術」に対して、より大局的・長期的なものをいう。【戦術】
1 戦いに勝つための個々の具体的な方法。
2 ある目的を達成するための具体的な方法・手段。【作戦】
1 戦いや試合をうまく運ぶ方法や策略。転じて、物事を進めていくうえでのはかりごと。
2 歩兵・砲兵・騎兵などの、ある期間にわたる一連の対敵戦闘行動。出典:goo辞書
これだけではわかりにくいので、もう少し詳しく見ていきましょう。戦略の項目の補説にありますが、「全体的・大局的な方針」が戦略であり、戦略を達成するための具体的・局地的な方針を指すのが戦術です。さらに、戦略といっても範囲が広く、戦略という単語を見た際には何を指しているのかを理解する必要があります。例えば、国家戦略といった場合はある国が政治、経済、軍事など包括的な要素を含んだ国家レベルの方針を規定したものであり、軍事戦略は国家戦略を達成するために必要な方針を軍事に限って定めたものといえます。例えば、A国がB国に対抗するという国家戦略を掲げた場合、軍事戦略では「B国の7割の戦力を保持する」ことを目標とすることがあります。
戦略と戦術が上下関係にある概念である一方で、作戦というのは戦略・戦術を達成するために実施されます。作戦の下位概念には戦闘があるとされています。例えば、B国の都市Dを占領することが戦略となる場合には、途中の都市E、村Fといった戦術目標を攻略したうえで最終的に都市Dを占領するという作戦を実施するわけですね。抽象的なので具体例は後述します。
戦争は基本的にはある目的を達成するために実施されるものなので、戦略が曖昧な状態で開戦すると終わりのない泥沼の戦いになる可能性があります。具体的な戦略もなく段階的に日中戦争や太平洋戦争へと拡大していった大日本帝国、達成困難なソ連滅亡を掲げて独ソ戦に踏み切ったドイツ第三帝国、ロシア系住民の保護という名目でウクライナに全面侵攻して2年以上戦闘が続いているプーチン率いるロシアなどが例といえるでしょう。
第二次世界大戦で見る戦略・戦術・作戦それぞれの具体例
もう少し具体的に理解するために、第二次世界大戦のアメリカを例に戦略、戦術、作戦をみてみましょう1。第二次世界大戦時のアメリカの戦略目標は「簡単に言えば、ナチス・ドイツ、大日本帝国及びファシスト・イタリアを徹底的に打ち負かすこと」でした。では徹底的に打ち負かすためにどのような具体的なステップを積み重ねていくか?となるため、さらに下位の戦略を立てます。例えば、1944年時点ではまだフランスがドイツ占領下にあったため、フランスを開放するという戦略を定めるわけですね。
そこで、フランスを開放するためにどうするか、ということを考えて、ノルマンディー方面に上陸をして地上兵力を送り込むという方針を立てました。さらに具体的な侵攻方法として、先に空挺部隊を降下させたあとに海軍の船により直接海岸に陸軍を上陸させる、という戦術を選択しました。
上記一連の「イギリスからフランスのノルマンディー地方に上陸してヨーロッパに拠点を構築し、フランスを開放する」戦略を実行したのが、かの有名なノルマンディー上陸作戦(正式名:オーバーロード作戦)です。
日本の防衛省・自衛隊の戦略とは?

軍事戦略は平時・戦時双方で立案されるものなので、戦争状態にない現代の日本にも軍事戦略(防衛戦略と呼ばれる)は存在します。令和6年度の防衛白書の第Ⅱ部第2節より、我が国の最新戦略を引用します。
国家防衛戦略は、わが国政府の最も重大な責務は、国民の命と平和な暮らし、そして、わが国の領土・領空・領海を断固として守り抜くことであり、安全保障の根幹である
また、防衛目標として、次の3つが掲げられています。
国家防衛戦略は、次の3つをわが国の防衛目標として掲げている。
① 力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出する
② 力による一方的な現状変更やその試みを、同盟国・同志国などと協力・連携して抑止・対処し、早期に事態を収拾する
③ 万が一、わが国への侵攻が生起する場合、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国などの支援を受けつつ、これを阻止・排除する
大局的な戦略の定義に当てはまる通りやや抽象的な表現ですが、現代日本の戦略の根幹としては軍事力を含む、力による一方的な現状変更は決して許容しないことが明確に示されています。2022年2月にロシアによるウクライナ侵略は力による一方的な現状変更の試みであったこと、中国が台湾を侵略する台湾有事も現実的に発生しうる事態であることが念頭に置かれていることは言うまでもないでしょう。
上記戦略目標を達成するための具体的なアプローチとして3つの方法が示されています。
- 日本自身の防衛力の抜本的な強化
- 日米同盟による共同抑止・対処
- 同志国(インド、イギリス、オーストラリアなど)との連携
それぞれのアプローチについて詳しくはここでは記載しませんが、過去に記事を執筆しているので御目通しいただければ幸いです。
結び
今回は軍事用語としての戦略・戦術・作戦について解説してみました。国家防衛のために最も重要な概念が戦略であり、ここが明確でないと国家そのものが誤った方向に向かってしまいます。軍事戦略は自国のみではなく、他国に大きく影響を受けるため、不変ではありません。自国の定めた戦略が正しいものなのか判断するためには、周辺国の戦略も把握する必要があるといえるでしょう。